その頃、ナルボはソフトウェア部品で世界と向き合おうとしていた。
| 1996年 |
「タイムコレクション」OLEコントロール |
|
「コミュニケーションコレクション」OLEコントロール |
| 1998年 |
「データアクセスコレクション」OLEコントロール |
|
「スーパーグリッド」ActiveXコンポーネント |
|
「スーパーテキストボックス」ActiveXコンポーネント |
|
「タイムビュー」ActiveXコンポーネント |
|
「タイリングボタン」ActiveXコンポーネント |
|
「クイックソケット」ActiveXコンポーネント |
| 1999年 |
「コミュニケーションボード」ActiveXコンポーネント |
| 2000年 |
「クイックFTP」ActiveXコンポーネント |
|
「Word Reports」COMアドイン(MS-Office) |
| 2001年 |
「e-ハンコ」ActiveXコンポーネント |
| 2002年 |
「e-スタンプ」COMアドイン(MS-Office) |
| 〜〜〜〜 |
| 2024年 |
「Time View for Web」Webコントロール |
(01)ソフトウェア部品

1995年ナルボは社名も「Knowlbo」とし、会社のロゴも刷新し、改めて製品開発に臨もうとしていた。その頃は、Visual Basic(VB)の全盛期で、米国のサードベンダーから多くのソフトウェア部品(OCX:OLE Control eXtension)がリリースされていた。OCXは、OLEコントロールと呼ばれ、Windowsフォームベースのボタン、テキストボックス、グリッド、グラフ、などの画面部品や、通信部品などをソフトエア部品(コンポーネント)としてカプセル化し、アプリケーション開発を強力にサポートした。ちなみに、OLE(Object Linking and Embedding)は、Windowsのアプリケーション間でデータを連携する技術で、オーレと読む。OLEコントロールもこの連携技術を使ってアプリケーションと連携する。
OLEコントロールは、米国製で日本語化したものが多かったが、ナルボはこのソフトエア部品(コンポーネント)の製品開発に舵を取った。ナルボは当時、ナルボ製のコンポーネントを日本から世界へ本気で展開することを考えていた。
(02)Internet Explorer(IE)とActiveX
マイクロソフトはWindows 95「Plus!」からWebブラウザのInternet Explorer(IE)をリリースした。そして、その翌年1996年にはIEの拡張機能としてActiveXコンポーネントのサポートが開始された。ActiveXコンポーネントは、これまでのOLEコントロールをWeb環境でも利用可能とした。そして、IEはEdgeに代わり「IEモード」としてActiveXはサポートされるが、それも2029年には終了の予定だ。基本的にActiveXはWebにおけるセキュリティリスクにより排除されつつあるが、ベースとなるOLE技術やこれまでの資産を考えると少々残念だ。
そういえば、「ActiveXベンダー会」(AVA)というActiveXの販売会社、および利用企業による協会があった。ActiveX市場の拡大と育成、そして技術情報の交流などを目的に1997年2月に発足した。大手には日立製作所、出版社の翔泳社、また協賛会社としてマイクロソフト社、アスキー・ネットワーク・テクノロジー社も参加していた。
実はこの会の発足は、コムラッド社の高根社長がナルボに話を持ち掛け、ASP社に一緒に立ち上げをお願いしたことが起源となる。その後は、翔泳社とその月刊誌「Visual Basicマガジン」に広告を掲載していたコンポーネントベンダが次々に参加する流れとなる。
振り返れば、翔泳社、マイクロソフト社などにはそれなりのメリットがあったと思うが、参加ベンダーにとってのメリットは限定的だったように思う。
その頃、日立製作所は部品組み立て型ビジュアル開発環境として「APPGALLERY」という製品を提供していた。Visual Basic に近いものだが、「画面や機能の部品をキャンバスに配置して繋ぎ合わせることで、プログラミングの負担を軽減」する開発環境になる。このカタログのひとつの「Partner’s Voice」としてナルボは1ページで掲載されたことがある。そこでは、こんなことが記載されていた。(抜粋)
●現在のコンポーネントウェアへの取り組み状況
…製品開発においては、利用されたエンジニアの満足を大切に考え、売り切りでないコンポーネントの提供を目指しています。マーケットの最終照準はU.S.を考えています。このため、現在は日本語版のみですが、それらの製品バージョンにはあえて”J”を付加しています。…
●現在のコンポーネントビジネスについてどのようにお考えですか
…多くのユーザーは、まず、採用したコンポーネントに障害があった場合を恐れるのではないでしょうか。また、細かい要求仕様に対応していないといった理由で利用を見合わせるケースも少なくないと思います。…当然、こうしたサービスのいくつかは有償ということにもなるでしょうが、これについてはランタイムの使用本数に応じた価格体系の導入などで対応していくことも検討の範囲だと考えています。
●APPGALLERYとの提携のメリットと期待
…すなわちAPPGALLERYサイドからすれば、ランタイムライセンスベースで案件適用するコンポーネントは、バグはもちろん、カスタマイズ要求に対しても応じるスタンスが要求されます。…今後、コンポーネントの本来的な利用形態を見失うことなく、いっそうの市場拡大を目指して日立製作所のAPPGALLERYとのタイアップを積極的に進めたいと考えています。
(03)タイムコレクション(1996年)

ナルボで最初のコンポーネント製品は、1996年の「タイムコレクション」になる。「タイムコレクション」は、時計、カレンダ、タイムチャートのOLEコントロールで構成されるコレクション製品だ。
最初、ナルボはいくつかのOLEコントロールをコレクションとしてまとめてリリースしていた。1996年の「タイムコレクション」と「コミュニケーションコレクション」、1998年の「データアクセスコレクション」がそれだ。
さて、「タイムコレクション」だが、売れた記憶がない。(実際には0ではないと思うが)
しかし、この中のタイムチャートはその後「タイムビュー」としてリニューアル・リリースされ、ヒット商品となった。またそのDNAは、Webコントロール「Time View for Web」として、今も生き残り、更に未来を向いている。「タイムコレクション」がなければ、その後の「タイムビュー」も「Time View for Web」も存在しないことを考えると、感慨深いものがある。
(04)タイムビュー(1998年)

「タイムビュー」は、ガントチャート系の表示をサポートするコンポーネントで、現在、バージョン3になる。国産の唯一のガントチャートであることや多くの機能をサポートしたこともあり、長い間、人気のあるコンポーネントだ。現在も64ビット版が売れ、後継のWebコントロール「Time View for Web」への要望も絶えない。
「タイムビュー」を使わずに複雑なガントチャート系のアプリケーションを開発することを考えると、個々の要件を諦めるか、場合によっては数千万円規模の開発費用が上乗せになるなどが考えられるため、「タイムビュー」は一定の顧客を獲得した。ランタイムライセンスとして、140万円以上のサーバーサイトライセンスや、400万円以上のプロダクトライセンスを提供しているが、しっかり受注できている。
ActiveX製品のほとんどは、開発ライセンスを基本としている。(ランタイムライセンスはフリー)これは、日本市場でも強い米国メーカーのライセンス形態に沿ったものだ。しかし、ランタイムライセンスこそが、利用規模と相関するため、ナルボではランタイムライセンスは有料にすべきという立場をとっている。米国での発展形態は不明だが、有料でないとコンポーネントの開発会社は発展せず、衰退してしまう。結果、利用者のメリットも衰退することになる。事実、開発会社の多くは衰退してしまった。
実は、「ActiveXベンダー会」で、この「ランタイムライセンスの有料化」は話題にすべきテーマだと思い一度だけ議題としてあげたことがある。しかし、ランタイムライセンス・フリーの米国製品が強いこともあり、受け入れられることはなかった。結局、ナルボ単独でランタイムライセンスの有料化に踏み切った。結果は上記のとおりビジネスとして成立し、その後の「Time View for Web」につなげられ、利用者のメリットにも応えることができた。
(05)コミュニケーションコレクション(1996年)

「コミュニケーションコレクション」は、ソケット通信、Waveマイク、Waveスピーカ、およびチャットボックスのOLEコントロールで構成されるコレクション製品だ。
アプリケーションにこれらを組み込むことで、簡易にリアルタイムのネットワークコミュニケーションが可能となる。なかなかおもしろいコンポーネントセットだったが、需要がなかった。皮肉なことに、リモートワーク全盛となる2020年以降には、ネットワークコミュニケーションが一般的となっている。(25年も前のことだった)
そこで、このコンポーネントセットをシーズにアプリケーションを作成してみようと考えた。そして、Webカメラ、ビデオ通信も加えて開発したのが、Webビデオ受付システム「なっちゃん」だ。ちなみに、「なっちゃん」は親しみやすい受付のイメージとナルボの”な”から名付けた。インターネットが一般的になりつつある今後、企業の受付電話に代わるものとして売れるはずだった。が、売れなかった。考えてみれば、企業の受付には内線電話で十分だったのだ。インターネット電話にする必要がなかった。
そこで、事前に来訪予約可能とし、来訪時の突合せ、名札の印刷、来訪ログの管理などのバージョンアップを施した「なっちゃん2」を開発した。が、引き続き売れなかった。やはりニーズがなかった。
そんな時、某‐S社から「なっちゃん2」について知りたい旨の連絡が入った。10,000人規模の事業所の受付システムとして利用可能か打ち合わせしたいとのことだった。ネットワークコミュニケーションは不要で、①事前来訪予約、②QRコード付き名札印刷(入館)、③QRコード退館、④入退館ログ管理、が主な要件だった。「なっちゃん2」のWebページに掲載されている①来訪予約、②名札印刷。④来訪ログ閲覧に反応してくれたのだ。短期間ではあったが、S社の要望をフルで取り込んだ「なっちゃん3」が完成した。実稼働後は、1日1,000人以上の来訪者にスムーズに対応していた。(嬉しい)
S社で「なっちゃん3」は、毎日、多くの来訪者を受け付けていたこともあってか、某‐N社から現在建築中の大型のテナントビルでこれを使えるか打診があった。主な要件は、「QRコード付き名札印刷」の代わりに、①ICカードの発券(入館)、退館、②複数のテナントで運用、だった。そして、これらを反映した新しいバージョンは来訪受付管理システム「なっちゃん3」として完成することになる。その後、この製品は「VisitView」として無人受付に繋がっていくことになるが、この辺りは別のエピソードで紹介したい。
「コミュニケーションコレクション」というシーズから始まったストーリだが、顧客のニーズを取り込みながら紆余曲折を経て、来訪受付管理システム「なっちゃん3」にたどり着いた。これは、「成功ありきのプラン」というフレームワークでは達成できなかった。「なっちゃん3」に限らず、ソリューションやイノベーションの多くは、試行錯誤を繰り返してたどり着くものではないかと思う。とすれば、四半期で管理される上場企業からイノベーションは生まれにくいのかもしれない。
(06)クイックソケット(1998年)

「クイックソケット」は、「コミュニケーションコレクション」のソケット通信コンポーネント「イージーソケット」を単品化してリネームしたOLEコントロールだ。
Windowsソケットをビジュアルで簡易に利用することができる。基本的にはサーバー側、クライアント側、それぞれのアプリケーションに配置し、ソケットタイプ(STREAM / DGRAM)、ソケットポジション(サーバー / クライアント)、ローカルソケットとリモートソケットのIPアドレスとポート番号を設定すれば、あとは接続し、通信するだけだ。通信時にはソケットのアイコンが、送信、受信の表現をするのでとても愛らしい。
「クイックソケット」は、一部の利用者にはとても気に入られた。また、ある時期から無料化したこともあって、多くのアプリケーションで利用されたのではないかと、勝手に自負している。
ところで、秋月巌さんをご存じだろうか。Windows、データベースなどの見識が深く、月刊誌などへの執筆、Webサーバーのアプリケーション、監視ソフトなども開発している。しばらく、日本を離れていた時期もあったが、現在は戻ってきていると思う。実は、何度か会食をしたことがある。いつ会っても頭の回転、新しい技術へのキャッチアップ、哲学的な思考力が強い印象だ。その彼が、「クイックソケット」のファンだったことは知られていない。
(07)流通の洗礼
今では、ネットで宣伝から販売までが当たり前のようになっているが、1996年当時はまだまだ、技術系月刊誌などによる宣伝、流通(販売店)による販売が王道だった。このため、マイクロソフトや出版社、そして流通会社とのお付き合いも大切となる。
当時、ソフトウェア流通の最大手といえばソフトバンク社だ。今でこそモバイルフォンの印象が強いソフトバンク社だが、当時、ソフトウェア流通会社といえばソフトバンク社だった。
1998年の「データアクセスコレクション」だったか、いよいよ流通経由での販売を進めようとソフトバンク社へ訪問したことがある。事前に製品のキャラクタをデザイナーに作成してもらい、パッケージの箱のデザインと実物を持参して勇んで乗り込んだ覚えがある。しかし、結果は散々だった。一応、契約書類は渡されたが、ほぼ門前払いといったところだ。何も知らなかったが、毎日、2,000タイトル以上の新製品が出るようで、名もない零細企業の製品など、まともに相手などしていられないのだ。
今思えば当たり前の対応をされただけなのだが、かなり打ちのめされた。(少々厳しい相手に当たった感はあるが)
これまで、労力のほとんどは、①企画・開発と考えていたので、これと同等の労力が②営業・販売にも必要なことを強く感じる機会となった。
この時はまだ、③サポートにも同等の労力が必要になるとは思ってもいなかった。(特にソリューション系の製品において)
(08)データアクセスコレクション(1998年)

「データアクセスコレクション」は、データタイプ別の編集入力に対応するテキストボックス「バリアントボックス」と、データベース連携可能なグリッド「スーパーグリッド」のOLEコントロールで構成されるコレクション製品だ。アプリケーションにこれらを組み込むことで、入力系のユーザーインターフェイスを簡易に実現できる。
業務系アプリケーションにおいては、必須なコンポーネントなだけに、標準のコンポーネントから、サードベンダーのコンポーネントなど、競合は激しかった。結局、なかなか差別化ができず、いまひとつ売り上げは伸びなかった。
1996年の「タイムコレクション」と「コミュニケーションコレクション」が、ひとまずのジャブだとしたら、「データアクセスコレクション」は、渾身のストレートのはず、だった。しかし、そのストレートに手ごたえは無かった。この辺りからナルボのコンポーネント製品の開発は迷走することになる。
(09)スーパーグリッド(1998年)

「スーパーグリッド」は、「データアクセスコレクション」の「スーパーグリッド」を単品化したActiveXコンポーネントだ。
上記のとおり、「データアクセスコレクション」の売り上げが伸びなかったこともあり、試行錯誤が続いた。「スーパーグリッド」を強調するために、「データアクセスコレクション」からの単品化、月刊誌への広告展開や、その月刊誌の記事「NEW PRODUCTS」などへも掲載してもらった。が、状況は変わらなかった。
後日知ることになるのだが、データベース連携可能なグリッド系よりも計算式のサポートと再計算が可能なスプレッドシート系の方が、ニーズがあったのだ。これは、痛恨の失敗だった。なぜなら、先のエピソード「02 – 表計算システム」にあるようにナルボは既にスプレッドシートのノウハウを持っていただけでなく、スプレッドシートが小型コンピューターを牽引するほどの威力を持っていることも知っていたからだ。なのに、データベース連携可能なグリッド系の「スーパーグリッド」の開発を選択してしまった。
(10)e-ハンコ(2001年)とe-スタンプ(2002年)


「e-ハンコ」(2001年)は、いわゆる印鑑のイメージを作成するActiveXコンポーネントで、「e-スタンプ」(2002年)は、ExcelやWordに印鑑機能を提供するCOMアドインと呼ばれるものだ。COM(Component Object Model)は、OLEの基盤技術で、アプリケーションからコンポーネントの呼び出しをサポートし、COMアドインはExcelやWordのようなMS-Officeにコンポーネントを組み込む仕掛けだ。
「e-スタンプ」は、このCOMアドインの技術を使ってExcelやWord と連携し、その内部では「e-ハンコ」を利用して印鑑のイメージを作成し、対象のドキュメントにそのイメージを貼り付けている。
この時は、この「e-ハンコ」と「e-スタンプ」が、その後開発することになる「ワークフローEX」の捺印機能として活躍するとは思いもしなかった。
「ワークフローEX」はワークフローのテンプレートとして、ExcelやWordドキュメントをそのまま利用するコンセプトでヒット商品となったが、この捺印機能として、ユーザーが任意に捺印できる方式を「e-スタンプ」で実現した。(一応、「e-スタンプ」には認証機能があった)その後、承認に紐づけてシステム側で捺印する方式に移行したが、ここでは、サーバーにおいて「e-ハンコ」を利用した。
「ワークフローEX」は「e-スタンプ」と別の流れで発生し、最後に噛み合う結果となったが、何か連続性を感じた。この「ワークフローEX」については、また別のエピソードで紹介したい。
(11)Webコントロール(HTML部品)へ

振り返れば、コンポーネントは、その開発に多くのリソースを必要としないため、小規模な会社向きの技術でもあった。事実、コンポーネント製品をリリースする会社は、文化オリエント(その後、グレープシティ、メシウス)、ASP、ニュートン、アドバンスソフトウェア、コムラッド、など、比較的小規模な会社だった。しかし、売れていたのは米国製の日本語版だったことも記しておこう。
「エピソード 02 – 表計算システム」でも触れたが、ナルボは1987年に、おそらく国内で初めてDOSベースのグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)のGUIライブラリを製品化し、「PC Pops Library」としてリリースしている。まさに、コンポーネントが進むべき道と考えるのは自然だった。
OLEコントロール、およびActiveXコンポーネントは、既にWebコントロール(HTML部品)への移行が進んでいる。これは、セキュリティの強化、ブラウザ依存の脱却、およびサポート終了によるものだ。OLEコントロールはWindowsに直接アクセスできることが、セキュリティにおいては仇となった。また、Internet Explorer (IE)を含むWindows環境でしか動作せず、そのInternet Explorer (IE)によるサポートも終了する。更に、クラウド化が進む現在では、WebアーキテクチャによるWebコントロールの方が、バージョンアップなどの運用保守面で圧倒的に有利だ。
これらを背景に、「タイムビュー」の後継版となるWebコントロール「Time View for Web」は、開発されるべくして開発された。Webベースであることもあるが、ビジュアルは「タイムビュー」より洗練されているイメージだ。まだ、機能的に「タイムビュー」に及ばないところもあるため、着々と機能アップを進めている。そしていつか、米国にも乗り込みたい。(世界への炎はまだ消えていない)